南紀熊野/熊野古道で気付く「体験価値」と人間の感覚
千品山林社の森で、あらためて“気づく”ということ
千品山林社 さんのお誘いで、和歌山県・南紀熊野へ出張リサーチに行ってきました。今回、
- 実際の森林での体験
- 森づくりやワークショップを実践しているデザイナー・有志の方々との対話
- 林業の現場、プレカット工場の見学、紀州備長炭・炭焼き窯見学
- 地場の食を囲んでのディスカッション
という、非常に密度の高い2日間を過ごしました。
そこから得られたのは、単なる知識ではなく、いくつもの「気づき」と確かな実感でした。
若干長めのになりますが、ご紹介したいと思います。
インフラが「ない」からこそ、立ち上がる感覚
森に入ってまず強く感じたのは、インフラが整っていない環境に身を置いたときに、否応なく立ち上がってくる人間の感覚でした。
通信も、動線も、情報も、都市のように「用意されていない」。だからこそ、
- 人間が自然の中でいかに小さな存在か
- それでも自然とどう向き合い、共存してきたのか
- 自分自身が、どれほど「与えられた環境」に慣れきっていたか
そんな自省に近い感覚が、静かに、しかし確実に芽生えてきました。
タスク消費・コスパ思考では、気づけないもの
現代の私たちは、「効率よく」「失敗なく」「予定通りに」という
タスク型・コスパ/タイパ型の消費行動を理想とする価値観に、強く影響されているように感じます。
するとどうしても、
- 目先の目的や数字だけで判断しがち
- 手段が目的にすり替わる
- 「正解」だけを探しにいく
- 余白や違和感をスキップする
という状態になりがちです。
しかし森の中では、気づかないと何も始まらない。
そして、何も「用意されていない」からこそ、立ち止まり、感じることを求められます。
ふと気がつくと、ほんの小さなことに興味が湧き、
植物を手に取り、匂いを嗅ぎ、空を見上げ、足元の土を見つめる——
そんな行為が自然と生まれていました。
人は「気づく」と、感情が動き、行動が変わる
これは、ネオマデザインで長年扱ってきた人間行動心理モデル、そのものです。
- 認知・認識(気づく、注目する)
- 感情・マインドが動く(興味、共感、ワクワク)
- 記憶に残る/想起しやすくなる
- モチベーションが生まれ、行動につながる
今回の森林体験は、このプロセスが非常にプリミティブな形で立ち上がる場でした。
「森林」や「林業」は、知識として語られると、少し距離を感じるテーマかもしれません。
しかし、体験として接した瞬間、その距離は一気に縮まったのです。
「行動させる」ための、最初の一歩の体験づくり
興味を、どう立ち上げるか。
今回、千品山林社の千品さんをはじめ、現地でご一緒した皆さんと話をする中で、
共通認識として強く残ったことが、次の2点でした。
ひとつは、
「森林体験という行動に至るまで、どう興味をもってもらうか」
という “第一歩目の体験づくり” の重要性です。
多くの場合、森林や林業の価値は、「自然の大切さと雄大さ」「意義」「社会的価値」として語られます。
それ自体は間違っていませんが、行動の手前にある“興味”が立ち上がらない限り、人は動きません。
だからこそ重要なのは、いきなり「理解させる」ことではなく、
まず「気づかせる」「ひっかかりをつくる」体験をどう設計するか。
ほんの小さな違和感や好奇心、問い。
それが、行動のトリガーになります。
「価値をどう伝えるか」は、最大の課題であり、最大の伸び代
もうひとつが、「価値をどう伝えるか」という課題です。
千品山林社では、「インタープリター」と呼ばれる方々が、
山や森林の翻訳者として、訪れた人に価値を伝える役割を担っています。
非常に本質的で、示唆に富んだ取り組みだと感じました。
これは森林や林業に限った話ではありません。
私が関わってきた新規事業、研究開発、プロトタイプ設計の現場でも、
「価値を伝えきれていない」ケースを非常によく目にします。
- 技術はある
- 想いもある
- 価値も確かに存在する
にもかかわらず、
「それが、どう伝わるのか」「どう体験されるのか」まで設計されていない。
価値は、説明するものではなく、
自分ごととして、体験として伝わるものです。
だからこそ「どう伝えるか」は、体験設計そのものなのだと、あらためて実感しました。
森林体験は、体験価値設計の“原型”だった
今回の南紀熊野での森林体験は、
- 行動の手前にある「興味」をどう立ち上げるか
- 抽象的な価値を、どう体験として伝えるか
この2つを、極めて原始的で、かつ本質的な形で示してくれました。
これは、森林だから特別なのではありません。
人が人である以上、どんな分野にも共通する構造です。
デジタルやネットだけが、体験価値ではない
私はこれまで、次世代UIUX、空間体験デザイン、ショールームや共創空間など、
テクノロジー起点の体験設計を多く手がけてきました。
しかし今回、あらためて実感したのは、
「アナログで有機的な体験も、人の体験である以上、すべて体験価値デザインの対象である」
という、ごく当たり前で、しかし見失われがちな事実です。
「減点法」ではなく、「加算法」の体験
今の時代はしばしば、満点からの減点法で価値が評価されると言われます。
「不便があった」「失敗した」「欠点があった」。
一方、千品山林社の森で感じたのは、まったく逆でした。
- 何から始めてもいい
- ゼロからのスタートでいい
- どう感じてもいい
という、加算法の体験が成立しています。
そこには、「間(ま)」があり、
解釈の余白があり、一人ひとりの感覚が尊重される空気がありました。
それはまさに、ネオマデザインという会社の根底にあるキーワード、
「人間」「時間」「瞬間」「空間」「仲間」
が、そのまま立体的に存在している場所でした。
DXや共創は「手段」であって、「目的」ではない
地方創生、観光、林業、地域活性。
そこには必ず、
- DX
- 共生/共創
- デジタル活用
といった言葉が並びます。
しかし、それらはゴールではありません。すべての中心にあるのは、人です。
人がどう感じ、どう記憶し、どう行動を変えるのか。
そこを設計せずして、技術だけを足しても、体験は続かないのです。
体験価値創出という視点から
今回の南紀熊野でのリサーチは、
私自身にとっても、体験価値を原点から見直す時間でした。
人の行動心理、感情、感性をベースに、潜在的な課題や価値に「気づく」こと。
もし、
- 地域や自然資源をどう活かせばよいか分からない
- DXやデジタルを導入したが、うまく回っていない
- 価値が体験として伝わっていないと感じている
そんなテーマをお持ちでしたら、
ぜひお気軽に ネオマデザインにご相談ください。


