「また来たい」「居心地良いね」その感情は、設計できる。― 商業・文化施設の顧客体験を統合設計する「空間体験デザイン」とは

「また来たい」「居心地良いね」その感情は、設計できる。― 商業・文化施設の顧客体験を統合設計する「空間体験デザイン」とは
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以前のブログでは、ショールームや共創オフィスを「体験のプラットフォーム」として再設計するという話をしました。

👉NeomaDesign blog:空間が”体験”に変わるとき ― ショールームとオフィスのその先へ?

今回は、その延長線上で、より広いフィールド――商業施設、美術館・博物館などの文化施設、公共空間――における「空間体験デザイン」について書きたいと思います。

「居心地がいい」「また来たい」― その感情はどこから生まれるのか

ふと立ち寄ったカフェが、なぜか居心地よくて長居してしまった。あの美術館、また行きたいな。あのショップ、なんとなく好きなんだよね。

そういった感情を、あなたも経験したことがあると思います。

では、その「なんとなく」は、偶然でしょうか。

答えはノーです。

人が空間の中で感じる感情は、設計できます。 ただし、それには「デザイン」の範囲を、内装や見た目をはるかに超えて考える必要があります。

顧客アンケートを続けても、体験が良くならない理由

多くの施設が最初に手をつけるのが、来場者アンケートやVOC(顧客の声)の収集です。もちろん大切なことです。しかし、それだけに頼るのには大きな落とし穴があります。

人は、自分が何を求めているかを正確に言語化できません。

「展示がわかりやすければよい」「スタッフが親切だとよい」――そうした回答は、あくまで「意識できている不満」に過ぎません。感動や「また来たい」という気持ちは、むしろ来場者自身が気づいていない感情の動きの中にあります。

行動心理学の観点からいえば、人の行動の大部分は無意識に支配されています。「なぜそこで立ち止まったか」「なぜそのショップに入ったか」「なぜ記憶に残ったか」を、当の本人は説明できないことが多いのです。

だからこそ、アンケートの結果を「答え」として扱うのではなく、現場観察・行動データ・感情の動きを複合的に読む視点が必要です。

顧客の声は「課題のヒント」であり、「答え」ではないのです。

人の認知、感情と感性を設計の中に置く

空間設計の議論は、どうしても「機能」と「動線」に集中しがちです。確かに重要です。しかし、人が空間に対して感じる印象の多くは、論理ではなく感性で決まります。

光の当たり方、素材の質感、音の反響、人の密度、香り。これらは数値化しにくいが、体験の質を大きく左右します。「なんとなく居心地がいい」「なんとなく落ち着かない」という感覚の正体は、こうした要素の積み重ねです。

また、サイン計画や説明書きにおいても、視点にはいるかどうかも大事です。気が付くかどうか。やりすぎると、サインだらけで空間が汚く見えてしまう可能性もあるし、何もないと不便といわれてしまう。

ちょっとした商品説明のポップのタイポグラフィなどのデザインで、暖かみを感じることもあれば、高貴さを無意識にでも感じていき、それが体験価値になっていきます。

モノの置き方、レイアウトひとつひとつが小さいけれど体験と感情につながります。

モノだけではなく、人も同じ。コミュニケーションひとつとっても体験です。声のかけ方から設計できます。

ネオマデザインが大切にしているのは、この「認知・感情・感性の設計」を、機能設計と同列に扱うことです。「また来たくなる」「心地よい空間」という感覚は偶然ではなく、様々なアプローチで設計できます。

「いま」だけを見ていては、体験は設計できない

もう一つ、見落とされやすいのが「軸の多様性」です。

時間軸で見れば、体験は「来る前」から始まり「帰った後」まで続きます。SNSへの投稿、友人への口コミ、次回訪問の意欲まで含めて、設計の範囲です。施設の中だけを整えても、それは体験の一部でしかありません。

空間軸で見れば、施設全体のマクロな動線から、展示ケースの高さや照明の角度、サインの文言というミクロな要素まで、すべてが体験に影響します。

感情軸で見れば、「気づき→興味・関心→共感・信頼→行動・購買→記憶→再来訪」という人の内面の変化をストーリーとして設計する必要があります。

これら複数の軸を同時に持ちながら設計できる視点が、体験の統合には欠かせません。

すべての根底に「芯」がなければ、施策は空回りする

そして、最も見落とされやすいのが「芯となるコンセプト・理念・ブランド」の存在です。

「どんな価値を、誰に、どう届けたいのか」――この問いへの答えがなければ、どれだけ施策を積み上げても、バラバラな体験の寄せ集めになってしまいます。

空間・スタッフ・デジタル・言葉のすべてが、一つの世界観(ブランド体験:BX)として一致しているとき、来場者は初めて「ここにしかない体験だ」と感じます。コンセプトのない施策は、良い素材を使っても味のしない料理に似ています。

「なぜこの場所が存在するのか」を定義すること。それがすべての体験設計の出発点です。

内装・接客・VMD・DX、それぞれ整えてもうまくいかない理由

こうした視点を踏まえると、なぜ多くの施設で「投資したのに体験が変わらない」という状況が生まれるかが見えてきます。

建築・内装設計は設計事務所へ。接客・CS向上は研修会社へ。売場のビジュアル設計は専門家へ。データ活用はシステムベンダーへ。

それぞれのプロがそれぞれの領域でベストを尽くしているにもかかわらず、来場者が体験する「一連のストーリー」は誰も設計していない、という状況が生まれます。

人の体験は、担当の壁を知りません。

空間に入った瞬間から、動き、感じ、記憶し、また来たいと思う(あるいは思わない)。その連続した流れの全体を、誰かが責任を持って設計する必要があります。

美術館のCX向上プロジェクトから見えてきたこと

今年から、某美術館の顧客体験価値(CX)向上プロジェクトに、総合ディレクター・アドバイザーとして関わることになりました。

美術館という場所は、体験設計の難しさと面白さが凝縮されています。

まず、体験は「館内」だけで完結しないということ。

訪れる前の情報収集から、当日の来館、館内での動き、ショップや休憩スペースでの過ごし方、帰宅後の記憶と共有まで。空間的にも時間的にも、体験の設計範囲は広がっています。

次に、館内の体験価値は、ハードだけでは決まらないということ。

どれだけ建築設計が優れていても、スタッフの接遇が体験に与える影響は計り知れません。

案内の言葉一つ、視線一つで、来館者が感じる「この場所は自分を歓迎している」という感覚は大きく変わります。サインや売場構成、動線も同様です。これらはすべて、ブランド体験(BX)としても積み上がっていきます。

そして、データやDXは「目的」ではなく「手段」であること。

来館者がどのルートを歩き、どの展示に時間をかけ、どこで止まっているか。そのデータを蓄積・分析し、次の施策に活かすことで、運営は初めて「感覚」から「根拠ある設計」へと進化します。


ネオマデザインの「空間体験デザイン」5つの領域

ネオマデザインでは、こうした統合的な体験設計を「空間体験デザイン」と定義し、5つの領域を軸に設計しています。

① コンセプト・ビジョン設計(MVC) 「なぜ、誰のための場所なのか」を骨子から定義する。すべての施策の根拠をつくる起点。

② 顧客・従業員の体験設計(UXCX / EX) 来場前から退館後まで、全ジャーニーを一気通貫で設計する。

③ 空間・動線・売場・什器・照明等のクリエイション 現場を体験視点で観察し、モノの配置・サイン・照明など具体的な改善提案を行う。

④ 接客・コミュニケーション・UXライティング 受付の言葉や説明の仕方、文言まで。空間と人の両方から体験を整える。

⑤ デジタル活用(IoT・デジタルサイネージ・DX) アイキャッチ・行動データ収集・運営効率化等の手段として技術を活用する。

これらを別々に発注するのではなく、コンセプトとブランドを芯にして一体として設計する。それがネオマデザインの役割です。

アパレル店舗、百貨店、ショールーム、テーマパークのアトラクション企画まで、様々な商業・体験空間でこの設計に携わってきた経験が、この統合的なアプローチの土台になっています。


こんなお悩みありませんか?

  • 商業施設や店舗の顧客体験を根本から見直したい
  • 美術館・博物館・文化施設のCX向上に取り組みたい
  • 設備や人員は整っているのに、来場者の反応が変わらない
  • 内装・接客・デジタルをバラバラに発注してきたが、統合したい

そんなお悩みがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。 👉 お問い合わせフォーム

空間、人、データ、コンテンツ、ブランド。すべてを体験のストーリーとして設計できるのが、ネオマデザインの強みです。

 


Michinari Kohno

Neoma Design CEO, New Business Coordinator, UIUX Designer/Director, Beyond Experience Creator