これからのビジネスは実体験する前の予期的UXにも注目すべき

これからのビジネスは実体験する前の予期的UXにも注目すべき

UX(User eXperience / 顧客体験)視点で商品・サービスを考える場合、それを実体験している時のユーザーの心理状態や行動などの体験と価値を考えると思います。しかしその体験に到るまでに必要な体験(UX)というものあるはずです。

使っている技術は最先端、発表すると業界の評判はいいのになぜかお客さんがつかないといった経験はありませんか?

こういうケースを良く分析すると、実体験の前段階のUXが考えられていない事が多々あります。使う事前提、来る事前提、買う事前提、みたいになっているのです。デジタルサイネージで例えると「(広告や情報を)見られる事前提」になっている(確かにそれは正しいのだけれど)、でも実は誰も気がつかない場所に設置してあったり、気がつかないデザインだったり。アイキャッチが全くできていないのに、できてる前提でコンテンツが作られている事など多々あります。

今回はこの実体験の前のUXについて少し書いてみます。

予期的UX

UX白書(英語)にユーザー体験の時間区分 “Time spans of user userexperience” という概念が提唱されています。

UX白書よりユーザーエクスペリエンスの期間 (hcdvalue より引用)

サービスやアプリを触っている時は利用中、一時的UXにあたります。そしてそのサービスを受けて良かった事を知人に話しをしてみたりブログに書いてみたりするエピソード的UX。しばらくして「あぁこの製品買ってよかったなー、そのおかげで…」と回想する累積的UX(意味的UXとも言われます)。この累積的UXは中長期的に現われるもので企業や商品なんかのブランディングにも大きく影響するため、昨今非常に重要視されています。

一方で予期的UXがしっかりしていないと次の一時的UXにシフトしないとも見えます。予期的UXが不十分だとお客さんが離れていく、つまり機会損失になる、ということです。そして、この予期的UXがその後のUXにも影響していくのです。

 

マーカーレスマーカーでの事例

ここでARやO2Oなどで使われるマーカーレスマーカーの事例で予期的UXについて説明します。

カメラやセンサで情報を読みとる方法でよく見かける方法が、バーコードやQRコードを用いた方式です。QRコードは本当に昨今身近になり世界中色々な場所で見かける事が出来ます。これは画像認識や符号化といった技術分野の世界ですが、この領域では昔からマーカーをよりマーカーらしくしないものにできないか、マーカーを目立たせないで何とか認識させることができないか、を試行錯誤してきました。その結果、昨今では特定のパターン(マーカー)を不要とするマーカーレスマーカーとも言われる技術が発明され実用化されています。

例えば、ソニーのSmartAR技術。これは複雑な物体そのものをマーカーにすることができる技術です。雑誌の表紙などがそのままマーカー代わりにできてしまいます。富士通では、画面そのものをウォーターマークのように扱い、人がみてもわからない画像がマーカーになっている技術をリリースしています。実際のテレビの画面にスマフォを向けると情報が入手できます。パナソニックからは可視光通信を利用したLinkRay技術が発表されています。これは明かりやLED光源から信号を発していてスマフォのカメラをかざすとその信号情報を入手できる仕組みです。

これらの技術は、無機質なマーカーが不要で既存の画像などがそのままマーカーになるため、VR/ARの世界で期待されています。しかし、一方で信号(情報)を読みとる専用アプリが必要です。つまりQRコードをQRコード認識アプリを使うのと同じ使い方になります。「あれ?」とおもった人がいたら、その人は予期的UXに気がついた人でしょう。

これらマーカーレスマーカーには2つ大きな課題があります。

QRコードのように誰が見てもQRコードだと分かりやすいデザインは、確かに上記のようなマーカーレス認識技術分野からみると古く枯れた技術です。しかし、逆にいえば、”ここにデータ埋め込んでますよ!“というシグニファイヤー(アフォーダンス)になっているのです。

一方、マーカーレスマーカーになった場合の固有の問題として

  • どれがマーカーでどれがマーカーじゃないのか(識別・認識)
  • 今、情報が入手できるのかどうか(タイミング)
  • ここで情報が手に入るのかどうか(ロケーション)

これらが一見では判断できなくなります。そのためだけにスマフォを立ち上げて、アプリを起動してカメラ越しに周りを見回すか…というとちょっと疑問です。マーカーっぽく見えるほうが実は分かりやすい、のが皮肉なところです。

時々、「専用アプリをダウンロードしてかざしてください!」とシールを貼って展示していることがありますが、それだったらQRコードでも充分なはずです。場所によってはダウンロードする時間的余裕などお客さんにはないのですから。

もう一つ目の課題は、専用アプリを起動しておくのが前提、つまり実体験がはじまっている(一時的UX)ところからのユースケースが考えられていません。ユーザーが専用アプリをもし起動していなかったら、何も起こらないのです。その後のUXは無になってしまいます。描いているサービスにユーザーが加わる事は決してないのです。

いまやSNSアプリにしろ写真加工アプリにしろスマフォには多数のアプリがはいっていると思います。その中で、ある局所的なところでのみ使える専門アプリを立ち上げることをユーザーは覚えて居てくれるでしょうか?どんなに素晴らしい技術やそのサービスを受けた後に体験できる価値が凄くても、その入口に立たせてあげなければ意味がないと思うのです。

iBeacon等BTを使ったビーコンサービスもまさに同じ問題に直面していると思います。

これらのように専用アプリ起動が必須で、かつ、通常使わないようなアプリの事例の場合は、どうやって必要な時に自然と起動してもらうか、または気がついてもらうのか、またはユーザーには気がつかないところで自動起動できるように出来ないか、を検討することが重要です。

「アプリ起動が前提ですがそこはなんとかなります」

「そこは企画屋か代理店が考えますよ」

と担当者は言うのです。不思議な話しです。たしかに非常に魅力的なサービスならそれもありえます。ポケモンGoぐらいの体験提供があれば、「ここにピカチュウいるかな」と起動してくれますよね。それぐらい訴求力があるサービスなら良いのですが…

まとめ

Apple社 は自社のプロダクツを触る直前の、まさに、箱から出してセットアップするまでの体験(OOBE:Out-of-box experience とも言います)に拘ったメーカーとして有名です。箱のデザインや触り心地、開けた時にまず目に飛び込むモノ。しっかり考えられています。今ではOOBEをしっかりデザインしてくるメーカーも多くなりました。これは買った後の話しではありますが、このOOBEとも言える”開封の儀”をネットで見て、自分も買ったらこれが体験できるのだと興奮し自分もその体験をしたいから買いたい、と考えると予期的UXの一部とも言えます。

今回はマーカーレスマーカーの事例に絞りましたが、マーカーレスマーカーがダメと言っているのではなく、これらの素晴らしい技術を生かすも殺すも予期的UX設計に(かなり)かかっている、ということです。

ちなみにマーカレスマーカーの予期的UXを考えた実例として、お客さんが店頭で自然と手にしてしまうモノを使う方法をとりました。「インタラクティブサイネージ実例から」に記載してありますので参考にしてください。

非常に優れた技術やデバイスなどがあればあるほど、その体験が素晴らしいため、絶対にお客さんは飛びつくだろう、という過信を抱いてしまいがちですが、結果、宝の持ち腐れになってしまわないためにも予期的UXもしっかり考えていきましょう。

※こんな技術があるんだけど予期的UXを考えられないという方、弊社までご相談ください。前職・ソニーの研究勝部門にて最先端の技術をビジネスフィールドにシフトする仕事を多数してきました。その経験とアイデアで対応します。