WeChat に感じた中国の体験設計(UX) 〜北京出張から 〜

WeChat に感じた中国の体験設計(UX) 〜北京出張から 〜
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読了時間: 約 13 分

2019年9月、出張で中国・北京に行ってきました。

実は私、今回が生まれて初めての中国でした。中国人のコーディネーター兼通訳さんとずっと行動を共にし、その際、あれこれと見るもの触るもの聴こえるもの、五感をフルにつかって仕事のネタになりそうなこと、面白いモノコトを探していました。

北京出張で感じたことをざっと書き下ろしていたら思った以上に長くなったので、分割して blog にしようと思います。今回は「スマートフォンを中心とした体験設計が思った以上にうまくできていた」でした。日本と比べても、です。これはなぜなんでしょうか?その一つの理由が、

ネット規制強化に伴う自国製品絞り込み

という一見するとネガティブな理由が絡んでいるのではと思っています。(私のあくまでも推測です)

ネット規制強化に伴う自国サービス絞り込み

中国ではインターネット規制が厳しく、Google や Facebook は使えません。グレートファイヤーウォール(GFW)とも呼ばれています。LINE, Twitter, Instagram といった日本人がお馴染のSNSやメッセージアプリは中国では使えません。

じゃあ検索はどうするの?メッセージのやりとりはどうするの?SNSは?

そう思いますよね。ちゃんと中国謹製のサービスがあります。検索は、百度(バイドゥ)という中国最大の検索エンジンがあります。メッセージは、WeChat があります。また最近は、中国初のSNSもあります。tik tok はショートムービーSNSですが日本でも若い人を中心に利用されています。日本だと翻訳もGoogleが利用されますが、百度が非常に精度良く翻訳してくれます。

このように代用サービスが中国謹製でありますが、やはり世界で広まっているサービスが使えないというのはなんだか残念です。といって、ここで「選択肢が少ない=顧客体験満足度が低くて悪い」と直結するのは待ってください。

消費者にとって「選べないこと」はもちろん一つの不満です。しかし、一方で、皆同じアプリを、どんな時も使っているというのはメリットもでてくるのです。

中国で9割の人が使うメッセージアプリWeChat

中国とのビジネスが始まるかもと知人に話すと、過去に中国とのビジネス経験が豊富な人達は皆口々に「メッセージサービス WeChat にアカウントをつくっておかないとダメ」とアドバイスをくれました。

WeChat は中国のテンセント社のサービスです。中国語では文字の少ない手紙「微信(ウェイシン)」と発音し、以下のような大きな特徴があります。

  • 中国人のスマートフォンユーザーの9割以上が登録している(ほとんどがアカウント持っている)
  • 翻訳機能がある(母国の言語に訳してくれる)
  • 決済手段があり対応率が高い(タクシー、自動販売機、小売店等)
  • 健康保険、診察券、お薬手帳のかわりになる
  • 位置情報共有と近くに居る人探し
  • 連絡先管理、テレビ会議、日報週報等の管理可能(ビジネスアカウント)
  • 名刺管理サービスと連携(ミニプログラム)
  • ミニプログラムによる拡張

LINE にも同じような機能はあるのですが、WeChat は中国においてのメッセージアプリでデファクトスタンダードになっています。なによりも驚いたのが、ビジネスにおいても積極的に利用されていることです。打ち合わせで名刺交換した後、WeChat アカウントの交換も頻繁に行っています。むしろ、名刺はこの中にあるので、と WeChat 交換してくる方も数名いました。

結果、日本でアカウントを作った時には3名ほどだった WeChat フレンドも帰国時には数十名に膨れ上がっていました。WeChat 交換時にはこの人なんだっけ?と忘れないように自分でメモをいれることもできるようになっていて便利です。特に中国人は同じ苗字の人がいるので助かります。

位置情報共有機能は、タクシーを呼んで集合するときに友人がどこどこににいて「今、道路が混んでて遅れそう」、「先にお店探していて、こっちで動きみてるから」とか「あ、大分近づいてきた」とか分かる訳です。実際にこのようにコーディネーターさんが使っていて、なるほどー、と感心しました。もちろん、Messenger 等でも位置共有はできて私も使ったことはあるので、機能そのものにびっくりしたわけではありません。

機能だけ見るとLINEなど他のメッセージサービスでもできていることなので驚く程ではありません。しかし、実際にそれらの機能をフルで皆さん使っているでしょうか?

日本だと仕事相手とはLINEアカウントのやりとりはしない(したくない)、とシチュエーションによって区別している人も割りと居ます。LINEはプライベートと家族など仲良い人用でLINEはちょっと…という人もいます。仕事は実名でやりとりするので、Facebook Messenger ならOK、とか、Facebook はやってないから LINE か twitter の DM で、という人もいます。つまり、自分のペルソナ(仕事の顔、家族としての顔、趣味における顔、人には教えられないような秘密の顔…等)でサービスやアカウントを切り替える人がいます。

最近の傾向だと、ビジネス上は slack や chatwork を使っているので、そのサービスの中でメッセージ交換するのも見かけます。

さて、これらのサービスは相手がそのサービスを使ってくれていることが前提になっています。待ち合わせ場所が分からなくて「Messenger でどこに居るか位置情報送って」といっても相手がMessenger やってないから出来ない、といった問題が起こり得ます。

しかし中国においては皆 WeChat を使っているのでそういうことはありません。皆使ってるから公私区別せずにアカウントをやり取りし合う、という状況が生まれ、それが便利という体験を生み出しています。

乱立するサービスにおける体験価値とは

メッセージ交換、決済などの多くのサービスは対応する相手がいます。決済に関しては、お店の決済システムが対応していないと使えません。つまり、このようなサービスにおいて「使いたい時に使えること」が体験価値の善し悪しを決めます。

クレジットカードは、VISA, JCB, AMEX.. と色々国際ブランドがあり、これらプロパーカード以外にも各種デパートや小売店などが提携したカードが沢山でています。しかし、どのカードを使うにしても店舗では「クレジットカード払いで」といえば支払いができます。かつては、このブランドは対応してません、と言われて財布からあれこれ違うブランドのカードを探すなんてのはありましたが、最近はそのようなことは国内では減ってきました(なお、中国では Union Pay ブランドがほぼ独占しているので他のブランドのカードだと使えないところがまだまだ多いようです)。

ここで日本で今流行りの “〜Pay” 決済を思い出してください。

PayPay, LINE Pay, Origami Pay, Applepay, 楽天ペイ, メルペイ….あー、もう言うのも嫌になってきました(笑)急に増えてきましたね。まだまだこれからサービスインするところも多いと聞いています。皆さんはいくつ知っていますか?(笑)

これらQRコード決済型サービスは、QRコードを提示する(または読み取る)というお作法は共通です。しかしあまりにも短期間に多くのサービスが立ち上がったために、自分の所望する決済サービスがその店舗で対応しているのか、など決済前に不安になるのが問題です。クレジットカードのように「QRコードで」と言いQRコードを出したら、どこのサービスでも決済してくれるようになると良いなと思っています(恐らくクレジットカード同様に時間の問題かと思いますが)。

非接触型IC決済も、Suica, Edy, iD, PASMO, … 沢山あります。ようやく交通系ICカードは全国で相互利用できるようになり便利になりました。しかし、それでも、訪日外国人にとっては名前がそれぞれ違うことに戸惑い、日本の入国と出国の場所が違うとカードを返却返金できないなど、まだまだ問題があるようです。これもいっそのこと名前も含めて国内で統一して欲しいと思う人がいるのではないでしょうか。

さて、WeChat はそのアプリからミニプログラムという仕組みで翻訳や名刺管理など便利なサービスと連携がちゃんとできています。実際に触っていると、それぞれのアプリやミニプログラムのUIはまだまだ未熟な点が多々見受けられます。デザインに関しても同様です。しかし、それでも、皆が共通で使っていることで、繋がる・使えるという良い顧客体験(UX)を結果的に生み出しているように感じました。

さてここで目の前にあるトイレの扉を開けることを考えてみてください。

その扉にはドアノブ・ボタン・液晶パネルなどなどが沢山ついているようです。よって、貴方は引いてもいいし押してもいいしボタンを押してもいいし、レバーを上げたり下げたりしてもいいです。パネルを触れて「開」を押してもいいし、「開けゴマ」といってみたり、手元のスマフォで開閉もできるようです。

このように沢山ユーザーインターフェース(UI)をサポートしてくれているのは、凄く良さそうにも感じます。しかし、これらが多くなると、自分の希望が通用するのか悩みますし、沢山あるUIを前にして混乱する人もでてくるでしょう。

「使える」事が簡単に認知できること(無意識レベルが理想)

そして実際に簡単に使えること

これらが非常に大事な体験設計です。今のビジネスにおいて後者はUI/UXデザイナーが必死に設計していると思いますが、前者はどうでしょうか?

まとめ

私はまだ中国のITサービスの氷山の一角を見ただけです。まだまだメリットデメリット色々あると思います。

WeChat は日本デモ登録できますし使うこともできます。ビジネス、プライベート関わらずに皆使い、使うことの良さをユーザーが認知しています。中国政府が検閲をしているとかしていないとか噂はありますが、中国で活動する場合は必須ツールになっています。UIやデザインはまだまだなところはありますが、体験デザインは非常に興味深いところが多く感じました。特にメッセージの翻訳機能は大活躍です。中国語と日本語と多少の英語が飛び交うチームなので尚更でした。

 

サービスが乱立したり、囲い込みすぎると消費者の体験としては悪いことも起こり得ます。

私はここで真っ向から資本主義の競争原理を否定しようという訳ではありません。競争があっての、更なる良い体験(UX)やサービス創りが出来ると期待しています。すでに WeChat とは異なる位置情報共有に特化したSNSなどが中国でも新たに出てきています。

とはいえ、日本に戻ってきてコンビニでは沢山の支払い方法が表示され、街中には景観など無視したデジタルサイネージが煌々と広告を流している。そこに顧客体験デザイナー(UX Designer)はいるのだろうか、ユーザーファーストなんかではなくビジネスファーストではないだろうか、と思えてしまってなりません…


Michinari Kohno

Neoma Design CEO, New Business Coordinator, Beyond UX Creator, UI/UX Designer