来訪者は来る。でも、共創が始まらない。― ショールームの見学ツアーが「見学」で終わる5つの理由
以前、「空間が“体験”に変わるとき ― ショールームとオフィスのその先へ」という記事で、ショールームは「情報を伝える場」ではなく「価値に気づく場」だというお話をしました。
ありがたいことに、その後もショールームや共創空間、イノベーション拠点のリニューアルやオープンに関わる機会が続いています。拠点の在り方を考えるところから、ポスターの置き方、案内ツアーのセリフ1行まで入り込みます。
そして必ず、来訪者として何度もツアーを歩きます。ポスターを見ていきます。
すると不思議なもので、外から来た人間のほうが、その技術や展示が本当に伝えたかった価値に先に気づいてしまうことがあります。日々向き合っているご担当者ほど、自分たちの当たり前が見えにくくなるからです。
今回はその続編として、より現場に近い「見学ツアー」のお話です。
「来訪者は来る。でも、共創が始まらない。」
ショールームや共創空間のご担当者から、いちばんよく聞く声です。
来訪者は毎月来ている。技術もデモも揃っている。空間もきれいにリニューアルした。それなのに、見学が終わると「すごかったです」と言って帰っていき、次の打ち合わせや問い合わせにはつながらない。
どの拠点も、つくっている方々は本当に誠実です。
空間は空間のプロが、映像は映像のプロが、説明は技術を一番よく知る社員の方が担当しています。それでも共創が始まらないのは、一つひとつの質の問題ではなく、そのつなぎ目で来訪者の体験が途切れているからだと感じています。
ツアーの課題は「認知 → 感情 → 行動」のどこかで止まっている
ネオマデザインでは、体験を設計するときに、人の「認知 → 感情 → 行動」のプロセスを軸にした独自のモデルを使っています。
人はまず気づき、認識し、発見します(認知)。そこから興味や欲求が生まれ、共感や信頼へと育ちます(感情)。そして発想する、試す、調べる、誰かと共有するという行動に移ります(行動)。
この流れの中と並走する形で「来訪者は来る。でも、共創が始まらない。」
企業のショールームや共創空間で、いちばんよく聞く声です。
原因は空間でも展示でもなく、来訪者の「認知→感情→行動」のどこかで止まっていること。現場で見えてきた7つの理由を、ネオマデザインの人間行動心理モデルからまとめました。記憶(記銘・保持・想起)があり、さらに全体を支える土台として環境・土壌(人やコミュニティ、ルール、触媒となるイベント、空間)があります。
見学ツアーがうまくいかないとき、来訪者の中ではこの流れのどこかで動きが止まっています。
驚いたけれど興味にならない。興味は持ったけれど、自分の仕事とはつながらない。覚えてはいるけれど、思い出すきっかけがない。
現場でよく見かける止まり方を、7つに整理してみました。
1. 拠点のゴールが「来訪数」になっている
来訪数は数えやすく、報告もしやすい数字です。ただ、来訪数はあくまで結果のひとつで、共創が始まったかどうかまでは教えてくれません。
拠点づくりで最初に決めたいのは、「来訪者に何を持ち帰ってもらい、次にどう動いてほしいのか」です。私はこれを、興味と信頼の “お持ち帰り” と呼んでいます。
そのためにおすすめしているのが、こんな問いです。
見学を終えた来訪者が、帰りのエレベーターで同僚に何と話していたら成功ですか?
この答えを一文で言えるかどうかで、そのあとのコンセプトや展示、セリフづくりの迷い方が大きく変わります。
2.「驚き」はあっても、記憶に残らない
最新の技術やスケールの大きな映像は、たしかに来訪者を驚かせます。ただ、珍しさによる驚きには慣れがあり、驚いた瞬間そのものは思いのほか早く薄れていきます。
先のモデルで言えば、驚きは認知の入り口です。そこから興味や共感、納得といった感情まで届いてはじめて、記憶に残り、行動につながります。
「すごい」で止まってしまうと、翌週にはきれいに消えてしまいます。
見せ場を増やすより、ひとつの展示で「なるほど、そういうことか」を起こすほうが、結果的に長く残ります。驚きは目的ではなく、感情への入り口として使うものです。
3. 技術の価値が、来訪者の言葉に翻訳されていない
展示の説明は、どうしても作り手の言葉になりがちです。
機能、スペック、社内の部署名や製品名。詳しい方ほど、正確に伝えようとしてそうなります。文字数も増えていきます。
けれども来訪者が知りたいのは、その技術がどこが凄くて、どんな価値があって、そして自分の仕事のどこに効くのかです。つまり必要なのは、説明の追加ではなく翻訳です。
シナリオづくりでは、まず問いかけや課題を投げ、次に一言で言い切り、そのあとで背景や技術を話す、という順番を大切にしています。答えを知りたくなる状態をつくってから、答えを手渡すイメージです。
「昨今、生成AIを業務に活用するのが当り前といわれていますが、実はちょっとそこに不安や恐怖を感じていませんか?」
例えばこんな風に自分事として一瞬考えてもらう声かけをシナリオにいれます。
さらに一歩進めるなら、来訪者の業種や職種に合わせた“つなぎの一言”をいくつか用意しておきます。同じ技術でも、製造業の方と小売の方では、刺さる置き換えが違います。この一言が、展示を来訪者自身の知見や課題と結びつける触媒になります。
4. コミュニケーションが一方通行になっている
説明が上手な方ほど、ツアーは一方通行になりやすいものです。
淀みなく、正確に、時間どおりに終わる。けれど来訪者は一度も自分の話をしていない、ということが起こります。
共創の種は、たいてい来訪者の側にあります。いま何に困っていて、どんなテーマを社内で抱えているのか。それを引き出せた瞬間に、展示は「見せるもの」から「一緒に考える材料」に変わります。
そこで必要になるのが、話す力ではなく聞く力(傾聴力)です。
- 「何かご質問はありますか?」ではなく、その展示に紐づけて具体的に聞く
- 相手の答えを受けて、次の展示の入り方を変える
- 2人体制なら、片方を聞き役にして、掛け合いの中で来訪者が話しやすい空気をつくる
ただし、問いかけが多すぎると尋問のようになってしまいます。問いは「ここぞ」という場面に絞るくらいがちょうどいいです。
5. 思い出す「きっかけ」が用意されていない
記憶には、覚える(記銘)、保つ(保持)、思い出す(想起)という3つの段階があります。見学ツアーは、このうち「覚える」ところに力を注ぎがちで、「思い出す」がまるごと設計から抜けています。
共創の相談は、見学の当日ではなく、数週間後に社内で何かの話題が出たときに生まれます。そのとき思い出してもらえなければ、どれだけ良いツアーでも存在していないのと同じです。
思い出すきっかけは、いくつも仕込めます。
- ツアー全体を束ねる短いキーフレーズを、繰り返し使う
- 持ち帰る資料やノベルティを、後で目に入る場所や語れるものにする
- 写真を撮りたくなる一角をつくる(撮った写真が、そのまま社内共有の入口になります)
- 見学後に送るお礼の連絡を、当日の言葉と同じフレーズで書く
6. 来訪者が「自分の言葉」で語れる形になっていない
ツアーのシナリオを考えるとき、多くの場合はストーリー、つまりこちらが語る物語を組み立てます。それも大事ですが、いま本当に必要なのは、来訪者が自分の文脈で語り直せるナラティブです。
共創は、その場にいた人だけでは決まりません。来訪者が会社に戻り、その場にいなかった上司や同僚に話して、はじめて動き始めます。つまり来訪者は、こちらにとっての語り部になってくれる存在です。
そのために有効なのは、語りやすい形を渡すことです。
- ツアーの内容を、来訪者が一言で言い切れるフレーズにまとめておく
- 最後に「今日をひとことで言うと、どうでしたか?」と、来訪者自身の言葉にしてもらう
- アンケートで満足度だけでなく、「自社で使うとしたら?」を聞く
人は、体験を振り返るときに、いちばん心が動いた瞬間と終わり方の印象で全体を評価する傾向があります。心理学で「ピーク・エンドの法則」と呼ばれるものです。
ところが見学ツアーは、途中の見せ場に力が注がれる一方で、最後は「以上になります。アンケートにご協力ください」で終わることが少なくありません。映画でいえば、クライマックスのあとにエンドロールもなく、いきなり客席の照明がつくようなものです。
最後の3分は、来訪者の言葉が生まれる時間としてうまく使ってください。終わり方が変わると、「すごかった」が「一度相談してみよう」に変わります。
7. 迎える側の体験と、社内の土壌が置き去りになっている
来訪者の体験に目が向きがちですが、ツアーの質を最後に決めるのは、迎える側の社員の方々の体験です。
同じ説明を何十回も繰り返すうちに、言葉から熱が抜けていく。担当外の展示は、どこか自信なさげに話してしまう。来訪者はそうした空気を、驚くほど敏感に感じ取ります。舞台と同じで、出演者が楽しんでいない舞台は、客席にもそのまま伝わってしまうのです。
さらに、せっかく来訪者から共創の相談が生まれても、社内に受け止める窓口や仕組みがなければ、その芽は立ち消えてしまいます。モデルでいう環境・土壌の部分です。誰が相談を引き取るのか、どんなテーマなら進められるのか、社内のどのイベントが次の触媒になるのか。ここまで含めて、はじめて共創の拠点になります。
7つは、一本の線でつながっている
ここまで読んでいただくと、7つがバラバラの問題ではないことに気づかれると思います。
ゴールが決まらないと、何を感じてほしいかが決まらない。驚きを感情に渡せないと、記憶に残らない。翻訳と対話がないと、来訪者の仕事と結びつかない。思い出すきっかけがないと、行動は起きない。そして迎える側と社内の土壌がなければ、生まれた芽も育ちません。
空間、展示、言葉、人、運営。それぞれは揃っているのに、そのあいだで文脈が途切れてしまう。ネオマデザインの社名の由来でもある「間(ま)」は、まさにこのつなぎ目のことだと考えています。
ちなみにこの構造は、企業のショールームに限った話ではありません。商業施設や文化施設でも、驚きが記憶にならない、来館者が自分の言葉で語れない、といった同じ課題が起きています。
あなたの拠点のセルフチェック
- 来訪者に帰り道で何と話してほしいか、一文で言えますか?
- 驚きのあとに、納得や共感が用意されていますか?
- 説明は、作り手の言葉ではなく来訪者の言葉になっていますか?
- 説明員は、話すだけでなく、来訪者の話を引き出せていますか?
- 見学の数週間後に思い出すきっかけが仕込まれていますか?
- 来訪者が自分の言葉で社内に伝えられる形になっていますか?
- 迎える側が楽しそうに話し、相談を受け止める窓口がありますか?
ひとつでも「うーん」となったら、そこが伸びしろです。
見学で、終わらせないために
ネオマデザインでは、ショールームや共創空間、イノベーション拠点、展示会の新設・リニューアルにおいて、拠点の在り方とゴール設定から、体験設計、空間・VMD、ツアーシナリオ、ナビゲーター育成、共創カルチャーづくりまでを一貫して支援しています。
これまでの主な実績は、こちらにまとめています。
👉 ショールーム・共創空間・展示会の体験プロデュース(実績)
リニューアルやオープンを控えている方、いまのツアーに少しでも引っかかりを感じている方は、お気軽にご相談ください。まずは一度、いまのツアーを来訪者として歩かせていただくところから始められます。
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