技術学会参加のススメ 〜国内学会に参加して〜

技術学会参加のススメ 〜国内学会に参加して〜

読了時間: 約 8 分

ヒューマンインターフェース学会主催のヒューマンインターフェースシンポジウム2017に参加してきました。論文投稿したわけではなく、あくまでも業界技術調査等のためです。

今も昔も技術学会に参加している日本のベンチャーや中小企業は少ないようです。大手であってもR&D部門に従事している人以外では、あまり馴染がないかと思いますが、いわゆるビジネス上の展示会とは違った良さもあります。

今回は学会参加のメリット、デメリットや参加して感じた事をざっと書いてみます。なお発表論文の個別のコメントについては今回は割愛します(機会とリクエストがあれば書きます)。

ヒューマンインターフェースシンポジウム2017

大会プログラムを見てもらえばわかりますが、知覚・認知・感性といった人のプリミティブな部分の探求からはじまり、鉄板のユーザーインターフェースや支援技術、昨今話題のロボットやエージェント、そして芸術・エンターテインメント・デザインの領域までカバーしています。

結局、どんなサービスにしろ機器にしろ体験する対象が人間である以上は、ヒューマンインターフェースとして切り口は存在するんですね。

UXの世界では当たり前になっている、ユーザビリティテストに代表される主観評価やアンケート一つとっても、そこにノウハウがある。むしろ、その評価軸の出し方次第で結果も変わってくる世界。難しいのは、人の受けた心の中と体を解析するか。感情をいかにシンプルに抽出するか。

脳波や心拍も計っている研究もかなり見られましたが、眼球ノイズなどの不要なデータから意図あるデータを解析して抽出する大変さ、そういえば自分も昔やったなぁ、と懐かしく思いながら聞いていました。

さて、学会はパラレルセッション(幾つかの分野が平行して発表が行われるスタイル)になっており、聞きたい内容を絞るしかありません。私は、弊社の業務にも関係ある、「インターフェースデザイン」「VR・AR・3D」「ロボットエージェント」「ユーザビリティ」あたりのセッションに絞って聞いてきました。

学会参加のメリットとデメリット

ところで論文投稿や学会に参加したことはありますか?
私はソニーに勤務時代に国内/国際学会に何度か論文投稿し発表しました。聴衆参加もしました。

なんだか学会というと小難しそう、ビジネスに全く関係ない事をやってそう、と毛嫌いしていませんか?確かに数式や聞いた事がない理論ばかりの発表もありますが、学会によっては非常にビジネスに近い領域で身近な内容もあります。

メリット

  • 次のビジネスになりうる技術トレンドをいち早く知る事ができる
  • 企業ではなかなかアプローチできない評価実験など理論的に解析した結果を知る事ができる
  • 技術的な知見の蓄積ができる
  • ビジネス上では出会えないような企業や研究機関と繋がる可能性がある
  • 論文の筆者に直接質問やコメントできるチャンスがある
  • どの会社がどんな研究をしているか、リサーチしているかの動向がわかる

デメリット

  • その技術分野のバックグラウンドがある程度ないと理解できない
  • すぐにビジネスに直結するネタが常にあるわけではない
  • 論文の独特な記述と展開に慣れていないと読み難く理解し難い
  • レベルの高い学会は国際学会に多く、海外での開催が多い為、工数がかかる(時間とコスト)
  • 国際学会では日本での開催でも基本的に英語での発表のため語学力がある程度問われる
  • 学生の発表練習の場のようになっている時などもありレベル差が激しい時もある

その他、会社にとっては出張報告しなければならない場合には、学会参加後の報告書作成は結構大変な工数になります。また、国際学会の場合、その学会の非会員だと参加費に15万円/人かかるところもあります(金額はかなり差があります)。これを高いとみるか安いとみるかは人それぞれですが…

なかなか実業務と自分のレベルにマッチした学会を探し当てるのは難しいところですが、最近はネットで論文を比較的簡単に入手できます。事前に過去の論文を読んで行く学会を絞るのも良いでしょう。

UI/UXに関わる学会

Source: UX Magazine

ずばりUI/UXという名前のついた学会は残念ながらありません。それぞれの学会によって扱う技術と視点が異なるので「これがUX総本山の学会です」「これがインタラクションの学会です」というのは言い難いのですが、UIUXを包含する学会をざっと知っている範囲で抜粋しました。

国際学会は国内以上に多くそもそもUIUXの分野が多岐にわたるので代表的なところのみ紹介します。

国内学会

情報処理学会
ヒューマンインターフェース学会
人工知能学会
日本感性工学会
日本知能情報ファジイ学会
日本デザイン学会
日本バーチャルリアリティ学会

国際学会

ACM CHI (Human-Computer Interaction)
ACM IUI
ACM SIGGRAPH(special interest group on Computer GRAPHics and Interactive Techniques)
ACM UIST(User Interface Software and Technology)
ACM Ubicomp(Ubiquitous Computing)
TEI(Tangible, Embedded and Embodied Interactions)

まとめ

久々に国内学会に参加して色々刺激を受けました。最近は大企業であっても出張外出費削減のため学会参加を制限していると聞きます。

いま流行のAI(人工知能)にしろDeep Learning  にしろ、学会で発表されて日々研究者らが開発改善してきた技術の結晶です。すぐにビジネスに繋がる事がなくてもIT技術の進歩は速いものです。今年発表された技術がビジネスフィールドに出てくるのは意外とすぐかもしれません。

UI/UXデザイナと世の中で謳っている人で学会参加や論文を読んでいる人がどれくらいいるでしょうか。UXを語る時に経験値も大事ですが、そこに裏付けされる理論やエビデンスも重要だと思います。

小規模な会社ではあっても、過去のビジネス上の経験や知見だけでなく、論文や特許などをウォッチし最先端技術を常に学んでビジネスに活かせたらとネオマデザインでは(私は)考えています。


Michinari Kohno

Neoma Design CEO, New Business Coordinator, Beyond UX Creator, UI/UX Designer