UXデザイナーに必要な5つのこと

UXデザイナーに必要な5つのこと

読了時間: 約 15 分

(※本記事は、弊社代表の河野が note に上げた内容を Neoma Design Blog 用に一部修正したものです)

私が「UX (User Experience、顧客体験)」という言葉に出会ったのは恐らく西暦2000年直前、今から約20年前です。まだまだ、当時は日本では「UX」という言葉は馴染みがなく、検索しても日本語での情報は皆無でした。

当時私はインタラクションデザイン(IXD)やユーザーインターフェース(UI) の研究開発部門に勤務していましたが、それよりも前には、脳波や発汗値を計ってみたり、人の感性について研究したりと、ユーザーの感情感性や体験についての研究開発もしていて、今でも当時の知見は役に立っています。

独立してから「UXデザイナーには何が必要ですか?」「どんなことを勉強すればいいですか?」という質問を良く耳にします。そして、多くの鉄板的な回答は、オススメの書籍や手法などが大半ですが、それらは概ね間違っていません。特に日本では、UXというと、Web やスマートフォンアプリを中心としたネットビジネスやIT業界が中心のため、だいたい、本にせよ、アドバイスも似ていて的を射ています。よって、ここでは私ならではの視点(独断と偏見含む)で、UXデザイナーに必要なこと・重要なことを書きます。

どちらかというと、マインドセットと振る舞い、の話です。

なお、ここでは「UX (User Experience)」という言葉を使いますが、「CX (Customer Experience)や「BX (Brand Experience)」でも同じことが言えると思います。

大事な5つ

・憑依する
・無色透明になる
・無限の視点をもつ
・なぜ?という感覚を常にもつ
・相手は人間であるということを忘れない

それぞれ解説します。

憑依する

UXデザイナーに大事なのは、顧客の気持ちを知り分析し理解し先を読むことです。ユーザーであれ見込み客であれ、その人の気持ちにいかに成ることができるかにかかってきます。UXでは、そのサービスやアプリなど使っている時ではなく、それ以前の体験(予期的UX)からはじまり、サービス利用後の体験もしっかりトレースしていく必要があります。

学生をユーザーにするなら、朝起きて通学、学校で授業をうけて・・・そんな日常生活を思い浮かべますが、それは過去の自分の体験を引き出してくるだけではダメなのです。あくまでも貴方の学生時代の体験であって、今の学生とすでに環境含めて違っている可能性があります。都市部と地方でも違います。もちろん、性別でも異なってきます。

「憑依する」と書いたのは、まさに、ユーザーなり見込み客なり想定する顧客に憑依し、その人の体験、心情、価値観などを疑似的に主観し理解することになります。現実的にはそんなことできません。よって、憑依した状態に近い状態を作れるようにします。具体的には、以下の3つをしっかり行うと良いでしょう。

  1. まずは自ら体験する(主観)
  2. その顧客と近い価値観や環境に身を置いてみる(染まる)
  3. ヒアリングやインタビューする(客観)

他にも色々ありますが、あえて私が推したいのが、「自ら体験(主観)」と「身を置く(染まる)」です。

自分の価値観や生活とは全く異なる環境や価値観の中に自らを飛び込ませるのは勇気がいります。しかし、なぜユーザーはそのような行動にでるのか、どうしてそう思うのか、というのは、その世界に入ってみないと分からないことも多いのです。

憑依には、その人の価値観や感情に「同意」する必要はありません。人間ですから、考え方は様々です。体験しても「自分はこの価値はわからないな」「なんでこれが面白いの?」というのは当然でてきます。そういった自分の価値は隣においておき、主観・客観的な感覚や分析結果をうまくシミュレーション、再構成する感じです。

アラフォーのおじさんが、女子高生になれるか、というと難しいのですが、ある程度ロジックなりを体験したりしていくと、憑依した世界では「かわいい!」と感じ始めるので不思議です。自分にふと戻ると「え?なんで?」なんですけれが…

とにかく憑依に大事なのは、やはり「体験」なのです

無色透明になる

これは「憑依」の逆です。

何にも染まってない、ニュートラルな状態をつくることです。人は皆それぞれ価値観が違います。考え方・宗教なども異なります。それは悪いことではなく普通のことです。厄介なことに、それらの思考や価値観は、状況によって簡単にブレる(変わる)のです。

ここで簡単な質問です。

「日本において、通勤・通学している人の何%が電車を使っていると思いますか?また、どれくらいの人が自家用車で通っていると思いますか?」

色々なところでこの質問をすると、日本全国の事を聞いてるのに回答に地域差が非常に出るので面白いです。

答えは、自宅外就業者・通学者においての電車・鉄道通勤者は約16.1%です。自家用車は 46.5% と半数近いのです(総務省の国勢調査(2010年の利用交通手段 11-5, PDF, P264)から。)

どうですか?思った以上に電車通勤は少ないと思いましたか?そんなもんかな、と当たりましたか?

都市部に居る人達は、「電車・バス通勤が当たり前」という感覚な人が結構多いようです。実際、満員電車をみていると、相当な人数が電車を使っていますから、そんな印象をもってしまうようです。しかし、実際、国勢調査をみると東京都の電車利用率でも半数以下の 45%です(一方で、車通勤は10%程度です)。

このように環境でも人間は固定観念、バイアスがかかってしまうものです。

ユーザーがどう思うか、感じるか、良いのか悪いのかを考え体験を創っていくUXデザインにおいて、自分の価値観がついつい出てしまうのは仕方ないのですが、それを極力無くし、バイアスや偏見や特定の価値観や経験で捉えない、ニュートラルな状態で考える必要があります。

そのためには、先のように調査なりを見て現実を知り、自分の価値観との差を認知するなどが必要になります。バイアスや特定の価値観は、時に大事な事象を曇らせ蓋をして見えなくしてしまいます。または誇張するかもしれません。次に説明する「無限の視点をもつ」ためには、自分の価値観や考え方を無くし、無色透明に近づけるのも大事なことです。

無限の視点をもつ

UXに限りませんが、様々な視点で事象を捉えるのはビジネス上でも研究開発でも重要なことです。

視点は高さだけに限りません。広い視点も大事ですし、特殊なフィルターを通して、普段見えないモノやコトを特殊な視点でみると新しい発見があるかもしれまえん。

一眼レフカメラのレンズを沢山持っているイメージです。マクロレンズで細かくみたり、望遠レンズで遠くの見にくいものを見る、明るいレンズで周りはぼかして中心だけをしっかり見てみる、偏光フィルターをつけて水の中を見やすくしてみる…

もちろんレンズだけでなく、カメラを持つ人が寝転がったり、脚立にのって構えたり、レンズ以外でも本人の行動で視点は変えられます。

このように1つの事象に対して色々な視点を変えるには、そのレンズとなりえる、様々な領域の知見や体験が必要になってきますが、そういう視点があることだけを知っていれば充分武器になるはずです。その業界のプロを呼び一緒に見ればいいのです。そのレンズをもっている人を連れて来ればいいのです。

女性視点では?初見者の視点では?外国人の視点では?地域住人視点では?BtoB視点では?などなど…

色々体験や勉強して自分自身でそのレンズなりポジションを持てば強みになると思います。そのためには、行動経済学や認知学とか人を対象とした学問を勉強してみる。音声UI(Voice UI)関連であれば、音韻学やコミュニケーション学など「言葉」「対話」を勉強してみる、などです。

どんな学問でも雑学でもなんらかしかUXには役に立つと私は思っていますし、実際役に立ってきています。これという一本凄いレンズ(専門)をもっておくのも良いかもしれません…

なぜ?という感覚を常にもつ

一言で言うと「名探偵コナンになれ」です。

普通の人が気がつかない違和感を異常なぐらい彼(コナン)は感じて謎を解いていきますが、そういう違和感センサーはあったほうが良いです。

ある時、私はセミナー登壇のためセミナー会場を訪れました。エレベータ上がると、セミナー会場の看板があり、壁に矢印で印があり、無事に受付会場につきました。その間に私が感じたことは、こんな事でした。

・エレベーターホールに時計があるけど、これなぜここの位置なんだろう
・なぜこの向きに看板をおいたのか?こっちのエレベータから出たら見えないのに
・なぜこの高さに矢印にしたのだろう?日本人の視点の平均の高さが確か…
・非常口やトイレのサインがシンプルでいいなぁ….
・にしては絨毯と壁のトンマナがあってないな

若干極端ではありますが、実際、私の五感センサーが見るもの聞くもの匂うもの等情報をあちこちから拾ってきて頭の中で考えます。常にこんな状態だと疲れてしまいますので、散歩中などは「考えないモード」にしますが、職業柄なのか、ついつい色々考えてしまう癖がついてしまいました。

違和感センサーを鍛えるには、逆の正常状態の「なぜ」を理解することが大事です。当たり前のことは無意識になっていくので、それを意識するのは変えって難しいものです。

トイレの男女のサインの違いを何で意識していますか?

日本人は「色で区別する」が大半です。青色系=男性、赤色系=女性、と認識してませんか?女性を青色に、男性を赤色にすると、間違って入ってしまう人がいるのですが、海外では色分けは少ないのでそういうことが起こらないのです。なんで男は青色なんだろう?と感じないとこういう事象にはたどり着けません。

もっと知りたい方は、Neoma Design Blog “トイレのサインから見る、人の認知能力とUX” も合わせて読んでください。

無意識にユーザーが良いと感じる体験を創るには、創る側としては「無意識を意識的に作る」必要もあります。そのために、「なぜ?」という感覚を持って、普段の無意識下にある正常状態を理解しておくことが重要なのです。

相手は人間であることを忘れない

UXにしろCX, BXにしろ見るべきは人間です。人間の行動は論理的な部分もあれば、感情感性などまだ充分解析できていない部分もあります。

UIのテストをしていた時、全くUIの挙動も仕様も変えてなくても、今日と明日では全く違うコメントをするひともいます。直前の感情で意見が左右される人もいます。これらは人間の面白い部分でもあり、また解析しにくい側面です。

そもそも人間の五感はアナログ的です。これだけテクノロジーが進歩しデジタルが身の回りに溢れたからといって人間の感覚は桁違いにこの100年でかわっていないはずです。モニタの文字をよく見るから目が良くなったかというと寧ろ逆です。タッチパネルを良く触るからといって、触覚が10倍100倍よくなったかは疑問です。

価値観や思考は人それぞれです。体験に対する反応も100人いたら100人違う可能性があります。そんな中で「体験」を創っていくUXデザインはなんと難しい仕事なんだろうと。

コンピューターやシステムと違って入力に対して必ずきまった出力が出る訳でもないのが人間なのです。それを常に頭にいれておかないと足下を掬われます。だからこそ、そのふわっとした、不安定な人間の行動や心情を捉えるために、多くのUXデザイナーや専門家が、さまざまなリサーチ、分析、プランニングなど手法を編み出してくれています。それらツールを鵜呑みにするのは危険ですが、なんかしらの定規や視点をもって見ていくことは、最初の一歩としても大事だと思っています。

まとめ

私がソニーに勤めていた時は常にグローバル(世界)マーケットを意識していました(意識させられました)。ソニーの商品やサービスにおいて「日本だけに売る」なんてことはまずなく、基本的に世界中で売ること、利用することが大前提です。最初から世界の人々がターゲットでした。

よって、日本人の感覚だけでUXデザインしていたらダメだったのです。様々な宗教や民族、文化の違いのなかで、良い体験・良いモノを創るには、自分を時には無色透明にしてニュートラルに捉えたり、その国の人に憑依したり。場合によっては、心理学や文化人類学などのアカデミックな領域から知見を引き出したりしました。もちろん、日本人的な感覚が世界に広がる事もあるので、何が価値や体験として大事かは、優先度をつけてすすめていきました。

実際、そこまでやっても企業においては、予算、戦略面といったビジネスの問題と直面し、各部署関係者とネゴシエーションしていく必要がでてきます(良く言えば交渉、悪く言うとバトルです)。

私自身、完全憑依も完全無色透明化はできていません。恐らく人間である以上は無理なんだと悟っています(本題と矛盾してしまいますが笑)。どうしても理解しにくい価値観とかやはりあります。しかし、なんとか近づけるための努力は、良い結果を出す糧になると信じています。

UXに100点満点はない. by Kohno Michinari

とはいえ、限りなく満点に取れる日をめざして今日も体験創りの旅にでかけます…


Michinari Kohno

Neoma Design CEO, New Business Coordinator, Beyond UX Creator, UI/UX Designer