トイレのサインから見る、人の認知能力とUX(体験価値デザイン)
※本記事は2016年公開の記事を、2026年3月に内容をアップデートしています。
世界中どこに行っても気になるのは “トイレの場所” ではないでしょうか?
人間である以上、避けては通れない問題です。そして同時に、これは「人の認知能力」が最も試される瞬間の一つです。
見知らぬ場所で、トイレの場所がわからない。そんなとき、あなたはどう探しますか?
フロアマップ、デジタルサイネージ、インフォーメーション。スマホで今いる施設のフロアマップを検索する。
それでも面倒なら近くの人に聞く…という方もいるでしょう。
ただ、多くの場合、私たちはまず「サイン(ピクトグラム)」を探します。そして大抵のトイレは男女別。入口のサインを見て、迷わず入っていくわけです。
これはショッピングモール “イオン” のトイレです。ユニバーサルデザインを考慮して設計されていて非常に綺麗で使いやすいものになっています。
私たちが海外に行った際に、現地の言語で 「トイレ」 という単語を知らなくても、ちゃんとサインを手がかりに間違わずに安心してトイレまでたどり着けるというのは非常にありがたいものです。
認知テスト
さて、トイレを探しもとめてようやくトイレの前に着きました。そこであなたが目にしたのは…
一瞬、戸惑った方、まったく不自然ではありません。
ここでは男女の色を入れ替えています。興味深いのは、日本人は戸惑いやすい一方で、外国人はこの入れかえにあまり影響されない、という点です。
男女のマークの色を入れ替えて実験した事例 “トイレの男女別識別について “においても、日本人の大半が間違ったトイレにはいったのに対して、外国人はこの間違いをするケースがすくなかったそうです。非常に興味深い結果ですね。
トイレに行ったときに男女のトイレの違いをどこでみますか?どこで識別していますか?
文字? サイン? 色分け?
おそらく色で識別している人が多いのではないでしょうか?もちろん文字を読んで入ってるよ、という人もいるでしょう。でも、なんとなく潜在的に色でもある程度識別しているのではないでしょうか。
日本ではトイレのマークとして、男性が主に青色系統または黒系統、女性が赤色系統の色に分けられているところが多いかと思いようです。
しかし実は海外ではこの男女のトイレサインの色分けは割と稀な例で、男女とも同色が一般的なのです。
トイレサインの色分けをしない理由
色分けしないでどう区別しているのかというとサインのデザインや文言(Man/Woman, 男性/女性, …等) で示しています。ではなぜ海外では色区別がないのでしょうか?
大きく分けると次の3点です。
- ジェンダーカラーの固定概念
- カラーユニバーサルデザイン(色覚多様性への配慮)
- 空間体験デザイン(空間全体の統一感)
それぞれ解説していきます。
ジェンダーカラーの固定概念
男性は寒色の青色系、女性は暖色の赤色系、と決めつけてしまうのはグローバル視点でみても、そぐわない時代です。
いまや日本の小学生もランドセルは、パープル、グレー、ピンクと色鮮やかで男女かかわらず何色でも良くなっています。昔は、男性向けのガジェットにおいて、赤やピンク色をつかったプロダクトカラーは避けられる傾向でした。女性向けにネイビーとかも同様です。しかし、いまは、ジェンダーレスカラー(中間色)など含めて、色のジェンダー分けは時代遅れと言われています。
なお、過去に香港や中国の一部では男子トイレが赤色、女性トイレが緑色だったそうです。赤色は中国で幸運の色であり好まれる色だからとか。現在はだいぶ無くなってきてはいるそうです。
カラーユニバーサルデザイン(色覚多様性への配慮)
色の違いが非常に少なく見えてしまう色弱者が性別の違うトイレに入ってしまうこともあるようです。性別の違うトイレにうっかりはいってしまうのはやはりトラブルの元になります。
日本でも最近はWebサイトやUIにおいてカラーユニバーサルデザインについて考えるようになってきています。(参考:福島県生活環境部人権男女共生課発行 カラーユニバーサルデザインガイドブック) しかし、昔からの風習なのか、青系/赤系の色分けしているところがまだまだ多いようです。
ではいつから男女の色分けをはじめたのでしょうか?
『1964年の東京オリンピックあたりで始まり大阪万博で一気に広がった』説がネットで検索すると出てきます。正確に明示された証拠文献までたどりつきませんでしたが、デザイン関連の教授等がテレビでこの節を断言しているようです。
- 芝浦工業大学 増成教授の blog “トイレのマークと東京オリンピック”
- フジテレビ “そもそも” トイレマークが色分けされたのは東京オリンピックからなの?
人型のデザインに関しては、男性がスカートをはく国もあれば、女性がスカートを必ずはくわけではない、ということもあり、スカートをはいたデザインだけではなく色でも男女を区別しておく、という二重の識別サインになったようです。
ちょっと脱線ですが、トイレなどの個室の空き/使用中が赤と青色だけで表示されているところがありますが、これも色弱者からすると分かりにくいので改善が必要かと思います。
空間体験デザイン(空間全体の統一感)
この写真はラスベガス空港で撮影してきた写真です。
天井には、遠くからでもトイレとわかるようにサインがあります。白地に紺色の円の中に黄色のピクトグラムですが、これは空港内の統一ルールになっていました。例えば、ターミナルNo.70 は、青円に黄色で70の文字がはいっていました。トイレだけ特別扱いの色ではなく、デザインルールに則っています。この空港のサインとしては、紺色と白が黄色が基調色になっているのです。
次の写真、左側は海外の空港のサイン、右側は国内羽田空港のものです。
左側の海外の空港は、黄・黒・白がサインの基調となっています。羽田空港は、日本人にはおなじみの、赤(ピンク)と青色のトイレのサインになっています。
「日本のほうが一目瞭然で、かつ、遠くからも色分けのトイレサインは目立つので良い」これも一つの意見だと思います。見つけやすさ、認知しやすさ、といった体験価値を優先するなら日本のサインのほうが良いです。
一方で、「空間美」を優先したらどうでしょうか?
海外の黄・黒・白基調の空港のトイレサインが赤と青色わけだったら?せっかくの空間デザインとしての統一感とかが崩れます。
海外の空港や駅では、日本ほどサインが多くなく、行き先に迷うことがあります。一方、日本の駅では足元まで情報が整備されていて、本当に親切です。
では、なぜ同じようにしない国も多いのでしょうか。
理由は一つではありませんが、「空間の統一感を優先する」文化や設計思想が背景にあるように感じます。実際に聞いてみると、「人に聞けばいい」「スマホで調べられる」という考え方もありました。
利便性と空間美の価値観については、Spectrum Tokyo のコラムとしても寄稿していますので、興味あるかたは是非合わせて読んでみてください。
トイレのサインの意匠デザイン
実際に海外にいくと色分けしているところもありますが、日本ほどではないように感じます。世界中を歩き回ったわけではないのですが、イタリアとイギリスに長年住んでいた人に聞いたら、「男女色分けではなく、文字かデザイン的なものが普通だった」とのこと。
さきほどのロサンゼルス空港の写真を見直してみてください。
トイレの入口のサインは女性が丸円、男性は三角形にそれぞれ人型の絵と Woman, Man の文字です。女性は足を閉じていて、男性は足をひろげたサインになっていました。
これは高級なショッピングセンターのトイレです。トイレ手前はガラスに描かれた紳士淑女の絵のサイン。そして入口ぎりぎり(写真は見え難いのですが)に、女性だと “F” の文字、男性だと “M” の文字のパネルがかけてあります。
これは羽田空港 出発ターミナルのサインです。トイレだけはカラーのピクトグラムが使われています。とくにトイレという文字によるサインはどこにもありません。トイレだけ青と赤で構成されているのは、やや浮いてみえるのですが、遠くからでもトイレがある、と日本人には理解できるので視認性のよさを考えると問題はないと思います。
そしてこのサインの通りに左に入っていくと、
トイレの入口があります。特にここにも男性/女性の文言はなく色と人型サインだけで区別されています。
こちらは都内のとある駐車場内のトイレですが、入口には男性女性の区別を示す文言サインはなく、単に青と赤の色分けした小さな人型サインのみになっています。ドアには何もかいてませんし、ちょっとこれは分かり難い気がします。
ここは男性が非常に薄い緑色、女性が黄色で区別されていました。施設の空間デザインとしては緑と黄色は非常にマッチしていました。しかし、私はトイレに行った時一瞬どっち?って悩んでしまいました。案の定、あとから来た女性が「あっ!すみません」って間違って入ってきたのを覚えています。
残念ながら(?)このブログを書くにあたり現場へ再度視察にいくと男性が緑色、女性が薄いピンク色に変っていました(写真参考)。
これらトイレの入口のようにオリジナルのサインや看板を施す場合には、「分かりやすさ」だけでなく、空間にマッチしている「心地よさ」「居心地の良さ」も考慮したデザインや配置にできるとより良いでしょう。
「分かりやすさ最優先」で、大きなサインや青・赤の壁面で強く示しているところもあります。視認性が高く、急いでいるときや初めての来訪者には助かる設計です。
一方で、高級ホテルやレストランの入る商業施設など、空間全体のトーンを重視している場所では、サインの表現を抑えたほうが心地よいと感じる人もいるでしょう。
このように、サインは「見つけやすさ」と「空間との調和」の両方に価値があり、利用シーンに応じて設計を選ぶことが大切です。
まとめ
日本ではお馴染の色分けしているトイレのサインと海外の事例をざっと挙げてみました。
色の違いはデザインの違いや文字を読んで理解して区別する事にくらべると、おそらく人間の認知メカニズムとしても非常に簡単で、潜在的に行えるメリットがあります。見た瞬間で区別がつくほど強烈なものです。だから信号などで使われるのです。
しかしそれが故にその潜在的な意識(無意識下による判断)に左右され、先の実験のように間違ってトイレにはいってしまうという問題もはらんでいます。また、現実的には、色弱者への考慮を考えると色だけに頼るサインは公衆の場においては危険です。今後、日本でも海外の慣習に倣って色分けしないトイレのサインが増えていくかもしれませんね。
場所を示すサインは、遠くから大まかに場所を発見してもらうためのもの、入口直前の最終的な案内と一つではありません。
用途に合わせて設置場所やサインの大きさや載せる情報量も変えて行く必要があります。交通やバリアフリーに関するサインの詳しいガイドラインについては交通エコロジー・モビリティ財団(エコモ財団)のページに記載がありますので、興味がある方は一読してみると良いでしょう。
同じようなサインに見えても日本と海外ではこのような違いがあります。体験デザイン(UX) を考える時にグローバルスタンダードを目指すのであれば、ちゃんと海外の意見やネイティブ外国人をつかったユーザビリティテストをちゃんとしてみてください。
この数ヶ月トイレに行くたびにサインをじっくり見る癖がついてしまいました。もはや職業病かもしれません… あ、そうそう。色分けとは別件ですが、調べていると
トイレに向かって左側に女性トイレ、右側に男性トイレを作るのが一般的
という面白い法則を知りました。
米国出張時の写真を見ると確かにその傾向があり、日本では必ずしもそうではないようです。
これも、どういう慣習でそうなったのか──時間があるときに調べてみたいと思います。
(トイレマークで女性が左側だから場所も左側なのかな、と私は推測しています。)









